GOOD NEWS FROM DESSEM 2018年9月号
雪で覆われた両サイド有刺鉄線の道を:
タクシーはひたすら走っていきました。今から30数年も前の話です。初めてドイツに行った時でした。確か1月中旬であったと記憶しています。ハンブルグの空港でローカル便に乗り換えました。そのローカル便の飛行機が50人乗りくらいの小さなプロペラ機でした。ハンブルグで乗り換えるとき、乗客がテーブルの上にある食べ物をドンドン袋に入れていきます。もう夜だったので夕食のつもりだったのでしょう。そのテーブルの上にはバナナとかの果物類、そしてブロッチェン(小型のドイツパン)にハムとかチーズを挟んだものが乗っていました。
行った先はキールという港町でした。キールはドイツ北部にあり、第二次世界大戦中は「Uボート」(日本でいえば回天のような)の発着基地でした。そしてご多分に漏れず終戦間際には連合国によって、その時の人口よりも多い数の爆弾を投下されズタズタになった町でした。キールに行った目的は、数十キロ離れたフリントベックと言う町にあるパン屋さんを訪ねることでした。そのパン屋さんは戦前から自然酵母のパンを作っていることで有名なパン屋さんでした。そのパン屋さんのパンは日本で柔らかいパンしか見なかった私にとって、正に衝撃的でした。丁度、神戸にあるハリーフロインドリーフというパン屋さんで見たパンよりも、もっともっとショックでした。
先ずは固いのです。焼き立てで固いのです。どれくらい固いかと言いますとハンマーのように釘が打てるくらいです。そして形もユニークでした。どうユニークかと言いますと、、、大きいのです。店主にお伺いしたところ「買う人の都合を考えることよりも、パンの都合を優先している。パンにとって良い大きさ、良い方さを考えている」との事でした。でも食べてみると本当に美味しいのです。美味しいを通り越して「うまい」のです。小麦、ライ麦、その他雑穀類のうま味のみが上手く絡まり、芳醇な香りで包まれたパンたちでした。
お聞きすればドイツでも南のアルプスに近い方のミュンヘン周辺ではライ麦の多い「黒くて固いパン」が、でもキールのように海が近い方では「白くて柔らかいパン」が多いそうです。それはドイツでも中ほどに行けばいくほど「肉食系」の食事が、でも北の方の海に近い方に行くと「魚系」の食事が多いそうです。肉食の場合どうしても体の中が「酸性」になるため、食事の中で「アルカリ系」のものを食するのが習慣になっているそうです。従ってフリントベックのこのパン屋さんは北の方にありながら「黒いパン」を売っている、珍しいパン屋さんという事になります。