デッセムを作った時の想い:
1.最初何を考えてデッセムを創業したのだろうか?当初は放射能によるパンへの影響を考えた。何故なら製パンで一番大事なのは大気(空気)だから。その為に5年かけて東京都内7店舗を整理し、山梨県富士川町に移り住んだ。
2.目的はただ一つ、自分の納得する安心安全なパンを作りたいという一心であった。ただ小なりとも言えど事業としてのパン屋である。その為には創業―経営―存続―継承という段取りを組まねばならない。
3.目的は安心安全なパンを作りたい、という気持ちだったのかもしれないが、創業時に思い描いていたのは
a.障害者の雇用
b.シングルマザーの雇用
c.シングルマザーのDVからの一時シェルター
という理想だった。この発想は自分の小さい時の体験による影響かもしれないが。しかし上記三点は恥ずかしながら、未だに手が付いていない。
4.これらの計画の履行には時間がかかる。恐らく向こう何年ではなく何十年という途方もない年月がかかるに違いない。その為にはこれらの計画を継承してくれる人が必要である。
5.会員様、そして応援して下さる方々のお蔭で、「無添加ベーカリー」としては一定のご評価を頂戴している。経営も安定してきた。だが僅か二年足らずでやり遂げた、と言う実感はない。もしも“一定のご評価”を頂戴出来ているとするならば、東京西荻で頂戴していたご評価をそのまま受け継いだに過ぎない。西荻時代のお客様には感謝してもしきれない。
6.今までの二年間、黙ってついてきてくれた妻・千穂さんには深く感謝している。そして途中から我々のプロジェクトに加わってくれた浅井さんに敬意を表したい。今まで自分の会社で立派な成績を残しながらもその会社を整理し、我々に加わってくれた。海のものとなるか、山のものとなるか些か見当もつかないパン屋によく来てくれた。
7.毎年一回、期間を決めてシングルマザーにパンをプレゼントしている。上記3点目が未だに手つかずの状態であるが為、その罪滅ぼしかも知れない。私は「施し」をするほど金持ちではないし、またそれだけの精神的余裕もない。毎月数万円ずつ貯金し、そのお金で「プレゼント」している。
8.国内産小麦粉も決して安心はできない。北海道産のものでも農薬は使用している。ただ比較論で海外のものよりは燻蒸殺菌などのリスクは少ない。そこで南アルプス市の休耕地を利用して自然栽培の小麦を作っている方を応援している。つまりその方に思い切ってたくさん作って頂く、その代り出来た小麦は全部デッセムが買い取るというものだ。
9.同じような話がヴァニラの場合も言える。この前フィジーからのメールで40キロのヴァニラを売りたい、という農夫の方が現れた。因みにヴァニラは100%人工栽培は不可能である。そのオーガニックのヴァニラ、世界相場で1キロ16万円。40キロ×16万円―――640万円。悔しいけれど今のデッセムの財力では手が出ない。
10.今は財力がほしい。何もヴァニラを買いたいが為ではない。例えばその640万円も即金で全部買うのなら、三割くらいの値段で買えるだけの交渉能力は持っているつもりだ。ことほど左様に、オーガニックの原材料を揃えるというのは大変な話である。でも一時的なキャッシュがあればかなり安く手に入るのも、この世の流れであろう。
悔しくても、悲しくても、無添加で安心安全なパンを作っていくことが私たちのプライドである。目先の事に惑わされることなく、この先も頑張っていきたい。
弱い、いや 齢 68歳
廣瀬満雄